詩人、二人のSHの詩紹介
大渡橋
萩原朔太郎 S H
萩原朔太郎肖像
ここに長き橋の架したるはかのさびしき惣社の村より 直ちよくとして前橋の町に通ずるならん。

われここを渡りて荒寥たる情緒の過ぐるを知れり往くものは荷物を積み車に馬を曳きたり

あわただしき自轉車かな

われこの長き橋を渡るときに薄暮の飢ゑたる感情は苦しくせり。

ああ故郷にありてゆかず鹽のごとくにしみる憂患の痛みをつくせりすでに孤獨の中に老いんとす

いかなれば今日の烈しき痛恨の怒りを語らんいまわがまづしき書物を破り

過ぎゆく利根川の水にいつさいのものを捨てんとす

われは狼のごとく飢ゑたりしきりに欄干らんかんにすがりて齒を噛めどもせんかたなしや涙のごときもの

溢れ出で頬につたひ流れてやまず

ああ我れはもと卑陋なり。往くものは荷物を積みて馬を曳きこのすべて寒き日の 平野の空は暮れんとす。

神の門
原田俊介 S H
風に甘い薫り暖かい雨ふる地はないか? 胡笛、響く墟の浮き彫りにもその楽園はみいだせなかった
 剽悍な黒い炎、おまえは 光の極み、国々の誉れ、麗しい空の庭 天を突く塔を なぜ、昔語りにするのか
  歓ぶ人に、歓びを独り占めさせないためか悲しむ人に悲しみを独り占めさせないためか……

      世のどこか、どこかに甘露の雨、雨ふる地があるなら
      その小さな一粒を、指にとって 口づけしよう

  虹が尽き果てる遠い遠い地の果てまで
      甘い薫りが満ちるように 限りない祈りをこめて

  

 
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