1 | ||||||||
おおローマよ、わが愛する国、わが魂の都よ! 死滅した多くの帝国のさびしき母よ 心のみなし児たちはあなたのもとへ帰り 晴れやらぬ胸に、あわれな嘆きをおさめる。 われらの悲哀、われらの苦悩は、何ものであろうか きても見よ、糸杉を、―梟の声をきき、辿ってゆけよ 崩れ果てた王座、神殿の階を われらの苦悩はただ1日の災禍でしかない― 脚下に、われらの現身のごとくはかなく、世界が倒れ横たわる。 |
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2 | ||||||||
滅びた国々の悲母ナイオビよ いまは1人の子もなく、王冠もなく、声も絶えて嘆きたたずみ 皺深い双手に抱くのは虚ろな骨甕、 そのとうとい灰も散りうせて久しくなった シピオ家累代の墓所にもいまは埋骨はない あまたの墳墓に、その昔の 英雄が眠っていることもない。 なつかしいタイバー川よ、大理石の廃墟の中を流れるものよ その黄濁の波をあげて、悲母の嘆きをつつめよ。 |
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3 | ||||||||
七丘の帝都の誇りを打ち砕いたのは ゴート人、基督教徒、「時」、戦い、洪水、火災。 1つまた1つ星の消えゆくごとく薄れゆき むかし、戦争がカピトルの丘によじたところには 夷狄の王たちがその峻しい坂に馬を進めた。 みるかぎり、神殿も塔もたおれて跡形もない。 混沌たる廃墟よ、その空虚の中を探ねて さだかに見えぬ断片に微かな光をあてて、だれが 層々たる暗黒中に、「かってここに、いまもここに」と告げるか。 |
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4 | ||||||||
われらを、幾世紀の夜の重なりと その夜の娘たる無知とがひしひしとつつみ おぼつかなくともたどってゆけば、ただ道をうしなう。 太陽には海図、天空には星図があり 「知識」はその豊かな膝にそれらを拡げる。 しかしローマのみは砂漠さながらに 思い出をたどって進みゆけばただつまづく 時に手を打って叫ぶ「いまし明かに見出でた」と ああ、それは廃墟の蜃気楼が浮かび出たのだ。 |
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5 | ||||||||
ああ崇高なる都よ、ああ! 三百にあまる凱旋よブルータスの短剣が覇者の険に打ち勝って さらに大いなる栄誉を得た日よ ああ、シセロの雄弁、ヴァージルの詩歌、または 絵のごとくうるわしいリビイの文章よ ローマの面影はただかかるものにだけよみがえるが ほかはすべて滅び去ったのだ。 ああ悲しい大地よ、ローマが自由だった日 その瞳にやどった輝きをまた見ることはないであろう。 |
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ヴェニス | ||||||||
私はいまヴェニスの「嘆きの橋」に立つ かたえには宮殿、かたえには牢獄 魔術師のふる杖にこたえるかに 浪間からから、その楼閣は眼のまえに浮かびあがる。 千年、―そのおぼげなる翼は私のまわりにひろがり 滅びゆく栄光は、はるかな昔に微笑みかえす その昔、属領はみなその翼ある大理石のし獅子像にひれ伏し ヴェニスは荘厳にも百の島の玉座に座した。 |
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いま海から生まれ出でたばかりの母神 空のかなたに誇らかな尖塔の冠をいただき そびえたち、壮大の力をもって 海のくまぐまとその権勢とを握るもの これこそ、そのかみヴェニスの面影 国々の劫掠と、無尽の東方との富は、燦く宝玉の雨となり この母親の膝に集まり、その娘らの身を飾り 王者の紫衣につつまれるとき、もろもろの帝王も その饗宴に寄りつどってその威厳を加えた。 |
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ヴェニスにタッソーの歌の響きはとだえて 歌もなく、ゴンドラの舟夫は黙して漕ぎ その殿堂は、水辺に崩れてゆく いまは、耳にひびく音楽もまれとなり かのよき日は去ったが、―美の面影はなおただよい 国々は滅び、芸術派消えたが―自然は滅びぬ 思い出すのは、そのかみのヴェニスの懐かしさ。 祝祭に満ちあふれた、歓びの宮 地上の楽園、イタリアの仮面。 |
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